ウォール・ストリート・ジャーナル、
BBC、タイムズなど各紙で絶賛されているのが
『THE UNIVERSE IN A BOX 箱の中の宇宙』
(アンドリュー・ポンチェン著、竹内薫訳)だ。
ダークマター、銀河の誕生、ブラックホール、マルチバース…。
宇宙はあまりにも広大で、
最新の理論や重力波望遠鏡による観察だけでは、
そのすべてを見通すことはできない。
そこに現れた救世主が「シミュレーション」だ。
本書では、
若き天才宇宙学者がビックバンから現在まで
「ぶっとんだ宇宙の全体像」を提示する。
「この読後の爽快感は何だろう。
宇宙の謎について、
科学者はどのように解決しようとしているのか、
面白いように理解できる。
この高度な内容をほぼ予備知識無しでも
スラスラ読めるのは奇跡だ」
西成活裕氏(東京大学教授)と絶賛されている。
地球を呑み込むブラックホール?
大型ハドロン衝突型加速器(LHC)が
二〇一〇年に運転を開始したとき、
地球を呑み込むブラックホールが発生
するかもしれないと心配された。
あるいはさらに劇的に、
素粒子を不安定にし、
ワインバーグとグースが
初期宇宙について仮定したような、
相変化を引き起こし、
この宇宙そのものが終焉を
迎えるかもしれないとも懸念された。
このような可能性は真剣に評価されたが、
LHC程度のエネルギーによる素粒子同士の衝突は、
宇宙では定期的に起きており、
悪影響はないため、
最終的には安全だと結論づけられた。
だが、このような議論は、
宇宙インフレーションの条件を真剣に
再現しようとする実験には当てはまらない。
そのような実験は、
この宇宙を本当に
終わらせてしまうかもしれない。
それは憂慮すべき事態だが、
おいそれとは手の届かない
実験領域でもある。
この本で説明した理論や現象の多くが、
暫定的なものだとしても、
私たちの宇宙のシミュレーションには、
それらを含めざるをえない。
ダークマター、ダークエネルギー、
星やブラックホールのサブグリッドの詳細、
そして今やインフレーションと
それがもたらす宇宙の初期条件などだ。
その他の現象、たとえば磁場や、
光速に近い速度で宇宙を疾走する、
宇宙線と呼ばれる小さな物質の塊などについては、
それぞれ一冊の本が書けるほどで、
シミュレーションに及ぼす影響も
精力的に研究されている。
しかし、今のところ、
それらが私たちの理解に大きな
違いをもたらすことはなく、
むしろ細部への修正にとどまっている。
シミュレーションは、
その性質上、完全なものにはなりえないが、
]銀河を記述するための最も重要な
要素の概要を私は説明したつもりだ。
材料を扱った後は、結果を再検討しよう。
シミュレーションは、
宇宙空間に実際に存在するものと単純に
比較できるような予測を生み出すものではない。
すべてのシミュレーションは、
近似であり、カオスはわずかな
不正確さを宇宙規模にまで拡大する。
また、インフレーションは、
時間の始まりを明確に記述するのではなく、
膨大な範囲の可能な出発点を与える。
気候学者が百年後の正確な天気を
知ることができないのと同じように、
シミュレーションのコードは、
宇宙の仕組みに関する一般的なガイドラインを
超えるものを与えてはくれない。
麦と籾殻を区別する
それでもコスモロジストは、
現実の宇宙とシミュレーションとを比較し、
ダークマターの性質や、
ダークエネルギーが宇宙を押し広げている速度、
あるいは百三十八億年前の
万物の起源を支配していた物理学について、
何かを推測したいと考えている。
これを達成するためには、
自動化された望遠鏡が収集する膨大な量の
データを知的ふるいにかける必要がある。
そのデータは、
シミュレーションと比較されなければならないが、
単純な一致を求める方法でではない。
コスモロジストの仕事の一つは、
麦と籾殻とを区別することだ。
私たちのコンピュータ世界と
現実世界とのあいだで、
何が一致しているのか、
何が本当に違っているのか、
何がランダムな気まぐれの結果なのか、
何がまだ分かっていないのかを
判断する必要がある。
人間は宇宙にあるすべてのデータを
消化することはできないし、
シミュレーションの結果もすべて
把握することはできない。
いまや、
私たちはますますコンピュータに
仕事を任せるようになってきている。
そのためには、
まったく異なるタイプの
シミュレーションが必要になる。