2024/2/9
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脳科学の最前線「ブレインテック」の世界 |
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脳科学の最前線「ブレインテック」の世界日々生活する中で湧き起こる 「好き・嫌い・ねたましい(嫉妬)・憎い」 といった感情は「心」の問題です。
「心ってどこにあるの?」と 思ったことはありませんか。
現在の科学では、心に関することはすべて、 脳の中で起こっている現象に 起因するとされています。
人によって異なる、でも変化もする脳「英会話を始めたけど、三日坊主で……」 「ダイエットを始めても、 すぐに挫折してしまう」―― そんな経験は誰にでもあるものです。
何かをやり始めたときに、 それを続けられる人と、 すぐに飽きてしまう人は、 実は脳の構造がそもそも違うということが、 最近の研究で明らかになってきました。
それでは飽きっぽい人は、 何をやっても続かないのかといえば、 そうではありません。
脳内ではニューロンと呼ばれる神経細胞が、 シナプスと呼ばれる接合部分を介して つながっていて、 ネットワークをつくって情報を伝達しています。
シナプスは、 さまざまな経験や学習したことを記憶し、 大きくなったり小さくなったりしながら 情報の伝わりやすさを操作します。
これを「シナプス可塑(かそ)性」と呼びます。
このシナプス可塑性を刺激すれば、 使われていない回路を減らし、 使う回路を強化して継続する力を伸ばしてくれます。
その刺激とは、 小さい目標ごとに達成感が得られるように 工夫することです。
このように、 脳を刺激することによって発生する作用を利用し、 近年、薬が効かないうつ病への新しい治療法として、 脳に磁気刺激を与え、 シナプス可塑性を促して、 抗うつ効果を実現させる治療法も生まれています。
脳血流の変化から、 活動している脳部位を可視化する アプローチも進んでいます。
脳の深部までデータを取得できる 「磁気共鳴機能画像法(fMRI)」の発明によって、 脳の機能活動がどの部位で起きたかを 画像化してビジュアライズできるようになりました。
例えば、 匂いを嗅ぎ分ける「嗅(きゅう)内皮質」は、 脳内で記憶をつかさどっている 「海馬」のすぐ近くにあるため、 嗅覚(きゅうかく)機能の低下は、 認知症の発症率や死亡率、 言語記憶、知覚速度、エピソード記憶の低下の 指標となることがわかり、 注目されています。
なぜ「他人の不幸」は「蜜の味」なのか脳内神経伝達物質の一つであるオキシトシンは、 信頼感を増す作用があるとされていますが、 それを証明する実験も行われています。
2008年に行われた研究では、 47組のカップルを 「オキシトシンの点鼻スプレーを投与する」 グループと、 「オキシトシンではない偽のスプレーを投与する」 グループに分けて、 それぞれのグループでお互いの 対立ポイントについて議論させたそうです。
そうすると、 オキシトシンを投与したカップルは ストレスが減ったのに対し、 偽薬を投与したカップルはストレスが高まり、 けんかになってしまったそうです。
このオキシトシン点鼻薬を世界中にまいたら、 地球上から戦争がなくなるかもしれない―― 悲しいニュースが続く昨今の世界情勢を見ていると、 思わずそんなことを考えてしまいます。
放射線医学総合研究所分子 イメージング研究センターの 高橋英彦博士らの研究チームは、 人が「ねたみ」という感情を持つ 脳内メカニズムをfMRIで明らかにしています。
例えば金銭的なコンプレックスを持っている人は、 「いいなあ、あんなに大きな家に住めて」
というふうに、 自分より裕福な人を見ると うらやんでしまうかもしれません。
恋愛でも他人をうらやむことでも、 「嫉妬」の感情は同じ脳の部位である 「前帯状皮質」で生み出されます。
この部分は体の痛みの感覚を扱う部分でもあり、 心の痛みと体の痛みは、 脳内の同じところで生まれている ことがわかっています。
だから私たちは嫉妬しているとき、 体に大けがをしているような 痛みをずっと感じたり、 重い気分になってしまったり、 ゆううつな気分になってしまったりするのだそうです。
一方でもし、 あなたがうらやましいと思っている相手が、 うらやましい存在でなくなってしまったら、 あなたはどんな気持ちになるでしょう?
「大きな家に住んでいる人が 火事に見舞われてしまった」
破産して自宅を取り上げられてしまった」
などです。
もしかしたら、 何かすっきりした感情を 抱くのではないでしょうか? ねたみと痛みは脳内の同じ部位が反応するので、 痛みが消えたような感覚になるとのことです。
まさに「他人の不幸は蜜の味」なのです。
国家レベルで進む「ブレインテック」の研究様々な研究成果をもとに、 「脳神経科学」と「テクノロジー」を 組み合わせた技術「ブレインテック」の 市場が拡大しています。
ブレインテックとは、 その名の通り「ブレイン(脳)」と 「テクノロジー(技術)」を掛け合わせた造語で、 最新の脳科学によって脳活動を計測・解析し、 その結果を製品・サービス開発や マーケティングなどのさまざまな分野で 活用する技術の総称です。
ブレインテックに関する研究は現在、 世界各地で進められています。
例えば、 脳科学先進国であるイスラエルでは2011年、 脳関連の技術を産業化させるために 「イスラエル・ブレイン・テクノロジー社」を設立しました。
アメリカでは、 脳の構造・機能・情報処理機構の 全容を解明するために、 「ブレイン・イニシアチブ」という大規模な 研究プロジェクトが発足しています。
世界中で国家プロジェクトとして 研究が進められているのです。
日本でも、 文部科学省の 「脳科学研究戦略推進プログラム」、 総務省の 「脳の仕組みをいかした イノベーション創成型研究開発」など、 各省庁で研究開発事業を実施しています。
ではなぜ今、 このブレインテックが盛り上がっているのでしょうか?
その背景には、 エレクトロニクスの進化とAIによる機械学習の進化、 そしてそれによる脳科学の発展があります。
脳の仕組みを解明するためには、 以前は非常に高額・複雑で、 大きな計測機器を使う必要がありました。
しかしその後、 半導体技術の発展や計測技術の精度向上 といったエレクトロニクスの進化によって そのハードルは下がり、 脳の仕組みや構造、 各部位の役割といった詳細が次々と 明らかになってきました。
さらにそれがAIの進化に寄与し、 進化したAIが再び脳科学に寄与するという 「スパイラルアップダイナミクス」が 働いているといえるでしょう。
ではブレインテックを活用することによって、 私たちは脳からどのような情報が 得られるのでしょうか?
例えば、 ユーザーの意識の奥深くに眠る インサイト情報を考えてみます。
運動意思や感覚体験、経験則に基づく判断、 好き嫌いといった主観評価に左右されるため、 そもそもデータとして取ることが 非常に難しいとされていました。
しかもこれらは非常に定性的なデータであるため、 定量的に取得するのはさらに 難しいとされていた領域でした。
ブレインテックの進化は、 こういった複雑な人間の情報もデータとして取得し、 解析することを可能にしました。
もちろん、 新たなビジネス領域の開拓にも つながっていくことでしょう。
見えてきたウェルビーイングとの関係ブレインテックは人間が介在する さまざまな領域に適応することが出来ます。
・【医療/ヘルスケア】 脳に関連する疾患の診断や予測、投薬治療の効果を測定
普段の生活や仕事に取り入れやすくするために、 違和感が少ないイヤホンタイプの脳波計の開発・リリース
いわゆる「脳とモノ」をつなぐ技術。
人間の脳から意思を読み取って 機械・ロボットを操作
脳活動から人の潜在意識を読み取り、 広告の開発やその人ごとに パーソナライズされた製品開発への活用
これらはその一例で、 三菱総合研究所が2022年に発表した データによれば、 ブレインテックの世界市場規模は、 今年2024年にはおよそ5兆円規模 になると予想されています。
これは、 2020年と比較すると2割も 増加していることになります。
この巨大市場に、 世界中の企業がビジネスチャンスを 見いだしているわけです。
脳には、 いまだ解明されていない未知の領域が 多く残されています。
そのなかで今後、 脳の謎が明らかになっていけば、 さまざまな日常の体験を アップデートすることが可能になります。
ささいな日常がより豊かになったり、 楽しくなったりすれば、 それは「ウェルビーイング」にも つながると考えられます。
さまざまな分野で必要不可欠になることが 予想されるブレインテック。
これからの動向が楽しみです。
<参考:藤田康人>
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