電子を視る方法を開発する
カメラの性能には
「判別できる一瞬がどれだけ細かいか?」
という要素があります。
大昔のカメラはこの「一瞬」が非常に長く、
撮られる人間はかなりの時間、
動かずにいる必要がありました。
もし撮影中に動いてしまうと、
顔や姿勢がぶれた写真ができあがってしまいます。
江戸末期から明治時代の偉人たちの写真を
現代でみれるのは、
彼らが撮影中に不動を貫いていたからです。
その後シャッタースピードの改良が行われ、
飛んでいく野球のボールや銃弾でさえも、
鮮明に捉えられるようになっています。
写真に記録される映像がどれだけ詳細であるかを
示す値として解像度という概念がありますが、
撮影に要するシャッタースピードの加速は
「時間の解像度」が上がったと解釈できます。
しかし物理学者が扱う粒子の速度は、
ボールや銃弾の比ではありません。
たとえば一般的な固体中の電子の速度は
秒速数千kmにも及びます。
(※粒子加速器などを用いいることで、
電子を光速の99.999%ほどまで
加速させることも可能です。)
このような超高速の粒子を撮影するのに
必要とされるシャッタースピードは
「アト秒」レベルになります。
1アト秒は100京分の1秒
(1,000,000,000,000,000,000分の1秒)となります。
しかしこれまで開発された最先端の画像化ツールの
時間の解像度は数十フェトム秒に留まっています。
フェムトはアトの1つ上の単位であり、
1000アト秒=1フェムト秒となります。
そのため既存の技術で飛んでいる電子を
画像化しようとすることは、
坂本龍馬を撮影したカメラで銃弾を
撮影しようとするのと同じと言えるでしょう。
そこで今回、
アリゾナ大学の研究者たちは、
飛んでいる電子を捉えるための、
究極のカメラを開発することにしました。
開発にあたってはまず
、既存の透過型電子顕微鏡の改良が行われました。
中学校などに置いてある顕微鏡は、
可視光を使って観察を行いますが、
透過型電子顕微鏡では光の代りに
電子ビームを使用します。
また透過型電子顕微鏡では
シャッタースピードによって画質が決まるのではなく、
電子パルスの持続時間によって決まります。
電子パルスの持続時間が短ければ短いほど、
時間の解像度が増し、
早い物体を捉えることが可能になります。
この装置では上から電子ビームが照射されると共に、
横から光が発射されます。
このとき照射される光は2つに分割され、
最初の光のパルス「ポンプパルス」は
サンプルにエネルギーを供給して
電子の活発な移動を促す役割を担います。
2番目の光パルスは「光ゲーティングパルス」と呼ばれ、
このパルスが存在する短い時間のなかだけ、
電子ビームがサンプルとされた
グラフェンに照射されるようになります。
光を使って電子ビームが
サンプルに注がれる時間を、
短い時間に限定するわけです。
原子核の周りの電子は普段は確率の雲を
形成して場所が定まっていませんが、
電子ビームで観測することで位置を
確定させることが可能になります。
ただ装置を作ってすぐに電子が
観察できたわけではありません。
研究者たちはまず準備段階として、
ポンプパルスがグラフェンに当たったときに、
グラフェン内部の電子密度が
どのように変化するかを予測しました。
すると上の図のように、
赤い部分で電子密度が高くなっていることが判明します。
研究者たちはこれら基礎情報を元に
装置を使った測定を行いました。
結果、アト秒レベルの時間分解能で、
グラフェン内部の電子の様子を捉えることに成功。
また観測されたデータは事前に調べた2つの
基礎情報とも矛盾していないことが示されました。
研究者たちはこの装置「アト顕微鏡」を使えば
「空間の中で電子の運動する様子を視覚的に
見ることができるようになる」と述べています。
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