生成AIが水を
「がぶ飲み」する
最新トピックスとして見過ごせないのが、
情報通信の問題です。
いまや社会生活に不可欠となったITやAI。
これを裏で支えるデータセンターでは、
オペレーティングコストの約7割を
電気代が占めており、
その内の8割はそこで発生する
熱の冷却に使われます。
これに拍車をかけているのが、
生成AIの登場です。
処理すべき情報量は桁違いに増え続けており、
世界中で約1万3,000の
データセンターが稼働しています。
驚くべきは、
我われが生成AIに質問を1つ入力する度に、
約2リットルの水が消費されることです。
質問の答えを導き出すために、
約1万3,000のデータセンターが収蔵する
全データにナノ秒でアクセスし、
全関連データを拾って項目毎に
並べるため膨大な熱が発生し、
これを冷却する際に約2リットルの水が
消費(蒸発)されるのです。
現在、
アメリカにあるデータセンターで
1日に使用される水の量は
約800万トンと言われています。
東京都に住む1,400万人が一日で使う
水道水の量が450万トンですから、
AIがいかに膨大な水を
「がぶ飲み」しているかが分かります。
オレゴン州やカリフォルニア州では、
水道水の3分の1がグーグルやオラクルなどの
巨大IT企業が運営するデータセンターによって
消費されており、
これに反発する住民とのトラブルが
訴訟にまで発展しています。
今後、
次世代の通信システムである5Gからさらに進化した
6Gが導入され、
車や産業機械の自動運転が本格導入されると、
情報通信の高速化、大容量化はさらに進み、
水の消費は爆発的に増加していくことでしょう。
人間の追求する便利さが、
水不足をさらに深刻化させることが懸念されるのです。
逆に言えば、水がなければ国や社会、
企業活動を支える生成AIや
情報通信が成り立たないのです。
300年も前から
SDGsを実践していた日本
世界の水問題がこのように深刻化する中、
日本の置かれた状況も厳しさを増しています。
東京大学の沖大幹教授の提唱する
「仮想水」という概念があります。
現在、
日本の食料自給率はカロリーベースで38%。
残りの62%を海外からの食料輸入に頼っています。
これは、
その62%の食料生産に要した
他国の水を輸入しているとも言えるのです。
これをもし国内で賄うとすれば、
約600億トンの農業用水を確保しなければ
ならない計算になります。
現在日本が農業用に
使用している2倍以上の水が必要になり、
たちまち水不足に陥ってしまいます。
結局、いまの日本の食料は
世界の水資源によって
支えられているというのが現実であり、
今後世界の人口がさらに増加して
食料が逼迫してくれば、
日本に供給する余裕はなくなっていくでしょう。
こうした危機的状況を克服し、
2050年の日本を豊かにしていく上で
着目していただきたいのが、
江戸時代のノウハウや経験です。
江戸時代は、
鎖国政策により海外からほとんど
物資を輸入していませんでした。
しかし当時の人々は、
国内で調達できるもので生活をすべて
成り立たせていたのです。
農作物はもちろん、山で伐採した木材で家をつくり、
い草を加工して畳をつくり、
夜の灯りは胡麻や菜種油・ロウソクで賄っていました。
着ているものが古くなれば雑巾にし、
それも使い古せば火にくべて燃料にし、
燃やした後の灰は肥料や陶器の釉として使いました。
人糞も貴重な肥料(金肥)となって農作物を実らせ、
町の各所に設けられた
公衆便所から放流された小便は、
そこに含まれる栄養素(窒素、リン、カリウム)によって
江戸湾を豊かな漁場にし、
江戸前名物の海苔、佃煮や寿司ネタとなる
豊富な魚介類をもたらしました。
身の回りにあるものを徹底的に使い切り、
循環させ、
持続可能な社会を実現していたのが、
人口約3,400万人の江戸時代末期だったのです。
私が国連にいた時にSDGsについて
議論が行われた際、
そんなことは日本では既に300年も前から
やっていたと発言すると、
参加者から驚きの声が上がり、
早速スピーチを頼まれたものです。
水資源が逼迫する今後は、
日本に昔からあるこうした優れた知恵に、
最新のAI技術を加味して、
世界各地の水の使用量や汚染度などを
きめ細かくモニタリングすることで、
限られた水資源を有効利用して、
確実に行き渡らせることが十分可能となります。
これに加えて、
現在の大都市を中心とする
大規模集中型の街づくりを、
河川流域を中心とする小規模分散型の
街づくりに転換していくことも有効です。
江戸時代の末期には全国に
約280もの藩が存在しましたが、
それぞれ他藩からエネルギーの
供給を受けることなく、
自立して社会を運営していました。
この歴史に学び、
日本に113ある大河川の流域を中心とする
経済圏を形成していくことで、
地域毎に十分な水資源を確保できると共に、
独自の資源や特色を活用し
持続可能な社会を構築していくことで、
地方創生も可能になると私は考えています。
森信三氏の予言によれば、
2050年に日本が底力を発揮する上で、
今年は極めて重要な年となる。
2025年、日本は再び甦る兆しを見せる年となるだろうか。
日本人は再び甦る兆しを見せられるであろうか。
