人間の首の骨(頸椎〈けいつい〉)は本来、
30~40度程度の前弯
(ぜんわん=前に緩やかにカーブした形) です。
しかし、長時間にわたるスマートフォンや
パソコンの使用などで首が前に突き出た状態が続くと、
自然なカーブが失われ、
真っすぐの状態になります。
これをストレートネックと言います。
頸椎は重さ約5~6キロの頭を支える
重要な役割を担い、
正常なカーブがあることで
首や背骨にかかる負担が分散されます。
ストレートネックになると、
そのバランスが崩れて首や肩への負担が増大し、
さまざまな不調が引き起こされます。

ストレートネック患者の首の骨(左)は
健常者(右)のような緩やかなカーブが見られない
◇スマホ・ゲームで首に負担
近年、整形外科の診療現場では
ストレートネックの患者が増加し、
特に若年層に広がっていることが実感されます。
背景には、
生活習慣の変化による姿勢の
悪化があると考えられます。
小学生あるいは幼児期からスマホやパソコン、
タブレット、ゲーム機を使用する機会が増え、
長時間にわたって画面を凝視する習慣が定着しています。
特にモバイル機器の使用では、
無意識のうちに首を前に突き出した
姿勢を取りやすくなります。
さらに、
運動不足もストレートネックを悪化させます。
かつては日常の活動の中で体幹や
背中の筋肉が自然に鍛えられ、
正しい姿勢を維持しやすくなる環境がありました。
しかし、
現代はデスクワークや座位の時間が長く、
姿勢を保つ筋肉が衰えやすい状況です。
その結果、
首への負担が増大し、
ストレートネックを引き起こしやすくなっています。
◇肩凝り、頭痛、手のしびれも
ストレートネックの最も多い症状は
首や肩の凝り・痛みです。
首から肩甲骨にかけての筋肉が
引っ張られることで慢性的な凝りや張りが生じ、
肩甲骨周囲にまで広がります。
頭痛もよく見られます。
首の筋肉の緊張による血流の悪化や
後頭神経の圧迫によって引き起こされ、
後頭部から側頭部にかけて
痛みが生じるのが特徴です。
また、首の前側の筋肉が緊張し、
首や鎖骨周囲の神経や血管が圧迫されて
胸郭出口症候群を引き起こし、
手や腕のしびれやこわばり、
むくみが現れることもあります。
さらに、
首や肩の筋肉が硬くなることで
目の周りの血流が悪くなり、
目のかすみや疲れが生じる場合も。
首には自律神経が集中しているため、
ストレートネックによる血流の悪化が
自律神経の乱れを引き起こし、
疲れやすさや睡眠の質の低下、
胃腸の不調などに至ることもあります。
◇放置すると全身に悪影響
ストレートネックが進行し姿勢が悪くなると、
首や肩だけでなく、
全身のバランスが崩れ、
さまざまな不調を引き起こします。
例えば、
猫背になり腰の筋肉が常に引っ張られて
腰痛が起こったり、
姿勢不良から下半身の筋バランスが悪くなり、
膝への負担が増加して膝関節の
痛みにつながったります。
また、
猫背だと肋骨(ろっこつ)が圧迫され、
動きが悪くなります。
それにより肺の膨らみが制限され、
呼吸が浅くなり、息苦しさを感じます。
加えて、
体内の酸素供給が不十分になって
全身の倦怠(けんたい)感や集中力の
低下につながるほか、
血管や心臓に負担がかかり、
高血圧や動悸(どうき)といった
症状が表れることもあります。
前傾姿勢だと上腹部や胃腸が圧迫され、
胃もたれや便秘などの消化器症状も
表れやすくなります。
このように、ストレートネックの放置は
全身のコンディションに思いも寄らない
悪影響を及ぼす可能性があります。
◇きょうからできる改善方法
〔生活見直し〕
ストレートネックを改善するためには、
まず生活習慣の見直しが重要になります。
スマホやパソコン、タブレット、ゲーム機の
使用時間を減らすことが最も効果的です。
〔正しい姿勢〕
次に意識すべきなのが正しい姿勢を保つことです。
デスクワークの際は背筋を伸ばし、
頭が前に出ないようにしましょう。
そのために、
パソコンのモニターを目線の高さに調整します。
ただし、
背筋を伸ばすことを意識し過ぎると、
背中を反らせ過ぎる人もいるため注意が必要です。
正しい姿勢とは、
背中の筋肉に余計な力が入らず、
おなかの奥に軽く力が入っている状態です。
立っているときも、
猫背にならないように顎を軽く引き、
耳の位置が肩のラインとそろうようにします。
〔ストレッチ〕
首や肩周りの筋肉をほぐすストレッチも効果があります。
ストレートネックでは、首の後ろだけでなく、
前側の筋肉も硬くなっているため、
首を360度すべての方向に順番に
ゆっくり倒してストレッチするとよいでしょう。
また、
肩甲骨の動きを改善することも重要です。
動かす際に肩関節に余計な負担がかからないよう、
両手を太ももに置いた状態で、
肩甲骨を回すように動かしたり、
寄せたりする運動をするのがお勧めです。
〔筋トレ〕
ストレートネックの改善には、
良い姿勢を維持するための筋力強化も不可欠です。
首周りはもちろん必要ですが、
最も大切なのは、
おなかの奥にある筋肉(腸腰筋)です。
簡単にできる方法として、
椅子に座り、
姿勢を正して軽く腰を反るようにした後、
少しずつ体を丸めていくと、
背筋の力が抜ける瞬間があります。
その姿勢をできるだけ長時間キープしましょう。
これだけで腸腰筋は鍛えられます。
一見簡単そうですが、
ストレートネックの人にとっては
意外ときつい運動になります。
さらに、
寝具も大きく影響します。
枕が高過ぎると首が前屈し、
ストレートネックが悪化しやすくなるため、
あおむけで寝た際に首の自然なカーブが
保たれる高さを選んでください。
以上のように、ストレートネックの改善には姿勢の矯正、
ストレッチ、筋力トレーニング、
生活習慣の見直しを組み合わせて行うことが効果的です。
ただし、
症状が改善しない場合や痛みが強い場合は、
整形外科やリハビリの専門家に相談し、
適切なケアを受けるようお勧めします。