2025/8/24

じつは、多くの人が知らない 「なぜ目が覚めるのか」… 覚醒を操る脳の 「モノアミン作動性システム」。 その衝撃の全貌

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

じつは、多くの人が知らない

「なぜ目が覚めるのか」…

覚醒を操る脳の

「モノアミン作動性システム」。

その衝撃の全貌

 

 

 

人はなぜ眠らなければならないのか?

 いまだに科学が解明できていない疑問、

人はなぜ眠らなければならないのか? 

 

 

脳は睡眠時に洗浄されてアルツハイマー病を

防いでいるという新研究、

 

世界で初めて日本が発売した画期的な

不眠症治療薬、寝不足でたまる

「睡眠負債」とは何か、

どう返せばいいのか……。

 

 

 

【書影】睡眠の科学・改訂新版

 

睡眠や覚醒をつくりだす

2つのシステム

 
 

前回の記事で取り上げた、

モルッチとマグーンにより

提唱された「上行性脳幹網様体賦活系」は

なシステムであるが、

いまではもう少し細かなメカニズムが

明らかになってきている。

 

 

まず、脳幹の中で覚醒を制御する部分が

明らかにされてきた。

 

それはいくつかの「神経核」である

(あるいは単に「核」ともいう)。

 

 

神経核とは、ニューロンの細胞体が

集まっている部分で ある。

 

脳幹にはいくつか、

特定の神経伝達物質*をつくるニューロンが

集まった神経核が存在しているが、

 

その中に、覚醒しているか睡眠時かに応じて、

活動を変化させている神経核が見いだされている。

 

 

 

しかも、その活動の変化は、

睡眠/覚醒の状態移行よりも先行して起る。

 

つまり、これらの神経核の活動変化の影響が、

睡眠や覚醒をつくりだしていると考えられるのである。

 

 

*神経伝達物質:脳に1000億も存在するニューロンは、

他のニューロンの近傍まで軸索を伸ばし、

 

細胞体または樹状突起の上に

シナプスをつくって接しているが、

くっついてい るわけではなく、

情報交換には物質を用いている。

 

こうしたニューロン間の情報交換に用いられる

物質を神経伝達物質とよぶ。

 

 

なお、特定の神経伝達物質を主な

信号伝達に用いているニューロンを、

 

「〜作動性ニューロン」とよぶ。

 

たとえばグルタミン酸を神経伝達物質として用いて いる

ニューロンは「グルタミン酸作動性ニューロ ン」である。

 

また、

1つのニューロンは単一の

神経伝達物質だ けをもっているわけではなく、

複数もっているもの も多い。

 

 

また、睡眠と覚醒の切り替えには、

グルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質よって

行われる通常の神経伝達のみではなく、

 

脳のモード変換に関わる2つのシステムも

関わっていることがわかってきた。

 

1つは「モノアミン作動性システム」と

よばれるものであり、

もう1つは「コリン作動性システム」と

よばれるものである。

 

 

実は、

この2つのシステムがどう活動するかによって、

覚醒、レム睡眠、ノンレム睡眠という3つの

状態が切り替わるのだ。

 

まずは、

「モノアミン作動性システム」の

特徴から見てみよう。

 

 

脳全体に影響を及ぼすような

解剖学的構造

 
 

モノアミン作動性システムとは、

「モノアミン」と総称される物質をつくるニューロン

(モノアミン作動性ニューロン)が

主役を演じるシステムである。

 

 

モノアミンとは、アミノ酸からカルボキシル基が

た形を基本形とする化学物質の総称で、

 

脳内では神経伝達物質として働く。

 

主なものに、

ノルアドレナリンセロトニンヒスタミンドーパミンなどがある。

 

 

 

 

【図】モノアミン作動性ニューロン
 
モノアミン作動性ニューロンと、
 
産生ニューロンの集まる神経核

 

 

これらモノアミンのうち、

ノルアドレナリンは青斑核(せいはんかく) 

 

セロトニンは縫線核(ほうせんかく)という

部分に存在するニューロンがつくっている。

 

これらの核はいずれも脳幹に存在する

(図「モノアミン作動性ニューロンと、

産生ニューロンの集まる神経核)。

 

 

また、

視床下部の脳幹との境界部にある

結節乳頭体(けっせつにゅうとうたい)という核には、

ヒスタミンをつくるニューロンがある。

 

 

これらの神経核は、

大脳皮質の広範な部分にまで

根を張るようにおびただしく枝分かれした

軸索を伸ばしていて、

広範投射系」とよばれている。

 

 

つまり、

脳幹の小さな領域から発した情報が、

軸索によって脳幹網様体を通過して

上行性に大脳まで達し、

 

脳全体に影響を及ぼすような

解剖学的構造をもっているのだ。

 

 

作用時間が遅く、

持続的に作用する神経伝達物質

 
 

脳内で働くもっとも主要な神経伝達物質に

グルタミン酸やGABA(γガンマアミノ酪酸)があるが

(いずれもアミノ酸系神経伝達物質)、

 

これらに比べるとモノアミン系の神経伝達物質は、

はるかに作用時間が遅く、

しかも持続的である。

 

 

なぜならば、

アミノ酸系の神経伝達物質の受容体は

それじたいがイオンチャンネルであり、

 

グルタミン酸やGABAが作用するとただちに

そのニューロンに電気的変化が起こるのに対し、

 

モノアミン系の物質は受容体に作用してから

Gタンパク質という分子を介して細胞内で

代謝的変化が起こり、

 

その結果として電気的変化が起こるからだ。

 

 

そして、

これらをつくるニューロンの形態も機能も、

特殊なのである。

 

 

 

【図】グルタミン酸作動性ニューロンと、モノアミン作動性ニュー ロンの情報伝達方式の違い
 
 
グルタミン酸作動性ニューロン(上)と
 
モノアミン作動性ニュー ロン(下)の
 
情報伝達方式の違い
 
 
 
 

たとえば、グルタミン酸をつくるニューロン

(グルタミン酸作動性ニューロン)の場合なら、

 

そのシナプスは樹状突起上の

棘突起(きょくとっき)につくられ、

 

その周りを「アストロサイト」とよばれる

グリア細胞が伸ばす突起がとりかこむことによって、

 

グルタミン酸は非常に局所的に作用するようになっている。

 

こうすることでほかの ニューロンへの

「情報漏れ」を防ぎ、精度を高めているのだ。

 

 

それに対し、

モノアミンを神経伝達物質とするニューロン

(モノアミン作動性ニューロン)では、

 

軸索の末端は数珠状の

ふくらみを多数もった形態をしていて、

 

そのふくらみからモノアミンが分泌される。

 

このことにより、

グルタミン酸作動性ニューロンとは逆に、

軸索の周辺の多数のニューロンに

影響を与えることができる。

 

こうした伝達を容量伝達

(ボリュームトランスミッション)という。

 

 

では、

これらのモノアミン作動性システムの

特徴から何が読み取れるだろうか。

 

 

 

モノアミン作動性

システムは「館内放送」

 
 

これらの特徴*により、モノアミン作動性ニューロンは、

小さな領域から発生した情報を脳の広範な

ニューロンに伝えることができる。

 

「情報漏れ」を防ぐのではなく、

むしろ広い範囲のニューロンに、

同時に同じような情報を与えようとする

システムなのである。

 

 

*「これらの特徴により」……

こちらのページからご覧になった方、

 

モノアミン作動性ニューロンの

驚きの特徴については、

こちらからご覧いただけます。

 

 

グルタミン酸作動性ニューロンが特定の

個人向けに情報を発信する、

 

いわばEメールだとすれば、

モノアミン作動性ニューロンは館内放送のような

情報伝達方式をとっているわけだ。

 

 

この働きにより、

「脳全体」の作動モードを変換するのだ。

 

モノアミン作動性ニューロンが「覚醒」という

モードをつくりだすのも、

この働きによるものなのである。

 

 

ちなみに、

多くの覚醒剤はモノアミン作動性ニューロンの

働きに影響を与える。

 

このことからも、モノアミン作動性ニューロンが

働くシステム(モノアミン作動性システム)が

覚醒と深い関連があることがわかると思う。

 

 

 

モノアミン作動性システムの特徴から、

覚醒に関わる働きを担っていることが見えてきました。

 

続いては、レム睡眠の起動に働くと考えられる

「コリン作動性システム」について見てみましょう。

 

 

 

<参考:櫻井 武・医学博士>