2025/11/10

「人間は脳の10%しか 使用していない」 これって本当なの?

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「人間は脳の10%しか

使用していない」

これって本当なの?

 
 

 

人間は通常脳の10%しか使用していない

 

そのような俗説を聞いたことがある人は多いでしょう。

 

割合は話によってまちまちですが、

「人間は脳の一部しか使用していない説」は

日本だけではなく、世界的に広まっています

 

 

2011年のアメリカ映画「リミットレス」では、

普段20%しか使用していない脳を

100%活性化するための薬が出てきます。

 

 

2014年に発表され興行収入

4億6300万ドルもの成功を収めた

「LUCY(ルーシー)」というフランス映画では、

 

通常10%しか使用していない脳を

極限まで使用率を高めたらどうなるのか、

といったことがテーマとなっていました。

 

 

そんなフィクション作品で人間の超能力を

目覚めさせる根拠として

便利に使われているこの俗説ですが、

 

本当に人は脳の一部しか

使用していないのでしょうか?

 

 

今回は、

生きる上で脳はどのくらい

使われているのか解説します。

 

 

 

私たちの脳は絶えず

100%働いている

 
 

実は脳は100%働いています

実は脳は100%働いています 

 

 

結論から言うと「通常はの10%しか

活動していない」というのは誤りです。

 

 

脳科学者の中でこれは常識であり、

脳の一部しか使っていないという

説明は紛れもない誤情報とされています。

 

 

科学技術や医療機器の発展によって、

現代ではMRIを使用すれば脳内の血流状態から、

脳内の活動状態が可視化できるようになりました。

 

 

こうした調査によると、

脳は受ける刺激や行動により活発に動く

領域が異なるのは事実ですが、

 

まったく活動しない箇所がある、

まして9割もの部分が働いていないことは

あり得ないことが分かっています。

 

 

それどころか、

活動量に差はあれど脳は常に

100%使用されています。

 

脳科学者のヘクト氏の主張は以下のとおりです。

 

・仮に脳の10%しか使っていない人がいるとしたら、

それは「人工呼吸器につながれている状態の人

 


・心臓が寝ているときも起きているときも

絶えず全身に血液を運ぶように、

脳も絶えず働いている

 

 

私たちは脳の大部分を

遊ばせるようなことはしておらず、

脳には活かしきれていない部分はないのです。

 

そのため残念ながら、

SF映画に出てくるような

「脳の使われていない領域を最大限発揮させ、

超常の力を手に入れる」といった

体験をすることは難しいでしょう。

ぼーっとしているときでも

脳全体が活動状態を示している

 
 

外界からの刺激を得ず、

ぼーっと内部で考え事をしているような状態のときは、

脳のデフォルト・モード・ネットワークが活性化します。

 

デフォルト・モード・ネットワークは、

運動する、積極的に情報を取り入れる、

といった外的な行動ではなく、

何もしないとき思考をめぐらせるときに活動増加を示します。

 

 

ちなみに、デフォルト・モード・ネットワークが

活動を増加しているときでもほかの神経ネットワークと

相互作用は起きていて、

脳のほかの部分は活動していないわけではありません

 

 

大阪大学の中野珠実教授の研究では、

デフォルト・モード・ネットワークが活性化されている状態でも、

 

瞬きをするときには外部に注意を向ける

状態に脳が切り替わることが判明しています。

 

 

上:瞬きをすると活動が上がる領域 下:瞬きをすると活動が下がる箇所

上:瞬きをすると活動が上がる領域 

下:瞬きをすると活動が下がる箇所 

つまり、

脳のデフォルト・モード・ネットワークが

活性化しているときであっても、

常にほかの神経ネットワークと

相互作用をしていると考えられます。

 

 

やはり、

脳はどんなときでも完全に活動を

停止する部分はありません

 

 

ただ、

この解説だけではまだ納得出来な人も多いでしょう。

 

 

次項では、

なぜ人間が脳が一部しか使用されていないという

俗説が広まったのか、

その理由に迫ります。

 

 

脳は損傷を受けてもほかの部分が

機能を引き継ぐことがある

 
 
 
 
脳は損傷しても機能を肩代わりする箇所がある
 
脳は損傷しても機能を肩代わりする箇所がある 

 

 

はすべての部分が機能しており、

10%しか使用していないなんてことはありません。

 

 

つまり脳のすべての場所が

人間の生活において必要な場所なのです。

 

 

この事実は脳を損傷した際に、

体の機能に障害が残ることからも分かります。

 

 

しかし、

脳の一部が損傷を受けて機能を失ったとしても、

その部分が受け持っていた能力を

ある程度取り戻せることがあります。

 

 

脳が損傷すると、

損傷具合や損傷した脳の場所にもよりますが、

体の一部に麻痺が残ったり、

認知症のような症状が出たり

(高次脳機能障害)します。

 

 

しかし、

リハビリを行なっていくと症状が

緩和していくことはよくありますよね。

 

 

これは、

脳の損傷部分が回復しているのではなく、

脳のほかの部分が機能を引き継ぐためです。

 

 

ここで、産総研による研究を紹介します。

 

 

この研究では脳損傷により手先を用いた

動作ができなくなったアカゲザルがリハビリにより

運動機能を回復させた際の、

脳の活動の変化を調査しています。

 

 

その結果、損傷前と損傷後のリハビリ後で、

手先を使用した際活発になる

脳の活動領域が変化していました。

 

 

損傷後は脳の活動箇所が変わる
 
損傷後は脳の活動箇所が変わる 

ただし、

この活動部位の変化は能力を発揮しているのではなく、

単に正常な脳活動が脳損傷によって

阻害されているだけの可能性も考えられます。

 

 

本当に脳のほかの部分が能力を

肩代わりしているのか調べるために、

産総研では、

このアカゲザルに対して、

脳の機能をブロックする薬剤を該当箇所に

使用し再度調査しました。

 

 

すると手の運動機能に再び問題が生じたため、

本来の領域とは異なる脳領域が

手の運動機能を引き継いだことで

回復したということが証明されました。

 

 

脳の一部が損傷したとしても、

ほかに機能を引き継げる部分があれば

機能回復は可能です。

 

 

これはモデル動物による実験ですが、

この研究結果は脳を損傷してリハビリが必要な

人間でも同様ではないかと考えられています。

 

 

なぜ脳は10%しか使用されていない

という誤解が生まれたのか?

 
 

こうして数々の研究報告を見てみると、

人間が脳の一部しか使用されていないという考えは

明らかな誤解であることがわかります。

 

 

ではなぜこのような誤った説が、

広く浸透しているのでしょうか?

 

 

1つは、これが脳の活動部位の話ではなく、

活動量という意味で10%と

捉えている人達がいるためかもしれません。

 

 

確かに脳にはPCのオーバークロックのように

一時的に高い処理能力を発揮できる可能性があります。

 

その証拠として、

ほとんどの人は「慣れ」により脳の

活動量が減っていくといいます

 

 

脳科学者のヘクト氏によると、

何かしらのスキルを習得しているとき脳は

活発に働きますが、

そのスキルの習熟度が上がると

脳の活動量は減るのだといいます

 

 

そのため、

常に新しいものに触れるように思考を

集中させていれば普段より

高い能力が出せるかもしれません。

 

 

ヘクト氏は自分の可能性を存分に発揮するためには、

「慣れ」に甘んじず熱心に

学び続けることが重要、と語っています。

 

 

 

脳の活動量には引き上げる余地があるかもしれない
 
脳の活動量には引き上げる余地があるかもしれない 

 

 

もう1つの理由は、先に紹介した、

脳には損傷を起こした部分があっても、

他の部分がその機能を

引き継げるという研究報告にあります

 

 

これは専門家から見ても非常に謎に満ちた問題であり、

脳科学者たちは自分たちの理解が

及ばない未知なる能力を脳はまだまだたくさん

秘めているはずだと表現しています。

 

 

これは彼らが脳研究の進捗に対して

謙虚な意見を表明しているに過ぎませんが、

 

こうした情報が巡り巡って

脳は10%しか能力を発揮していない

という言説に繋がったのかもしれません。

 

 

このためSF映画に登場するような、

使われていない脳領域を活性化させて、

超常的な力を発揮するということはおそらく不可能でしょう。

 

 

ただ、脳の活動量を上げることで通常より

高い処理能力を発揮させることは

将来的に可能になるかもしれません。

 

 

ここまでの説明を聞いて

あなたはがっかりしたでしょうか? 

 

それともやっぱり脳にはまだ何か隠された

能力があるんじゃないかと感じたでしょうか?

 

 

「人間は脳の10%しか使用していない」

この説が流行する最大の原因は、

おそらく学術的な根拠ではなく、

人間にはまだ未知の可能性があるという

ロマンを求める私たちの期待なのでしょう。