2025/12/31

脳の中心に存在する 第三脳室の形状を保ち、 脳脊髄液の流れを コントロールする視床間橋

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

脳の中心に存在する

第三脳室の形状を保ち、

脳脊髄液の流れを

コントロールする視床間橋

 

 
 

(研究成果の概要)

 脳の中心にある第三脳室

 

※1内の脳脊髄液の動きと、

その中央部で左右の視床を橋渡しする視床間橋

 

※2という構造との関係について、

3次元MRIと4次元フローMRI

 

※3を用いて調べました。

 

健常な人と、

歩行障害や物忘れをきたすハキム病

 

※4患者を対象として、第三脳室の大きさ、

視床間橋の幅や面積、

脳脊髄液の流れ方を「渦(うず)」の

強さとして数値化して比較しました。

 

 

その結果、

健常な人では、第三脳室の中に

心臓の拍動に合わせた規則正しい渦と

流れが一貫して観察されたのに対して、

 

ハキム病では、

この秩序だった大きな

循環(渦)が崩壊していました。

 

さらに、

高齢者ほど、またハキム病患者では、

視床間橋は小さく、第三脳室が大きく、

 

視床間橋が第三脳室の形を保つ「支え」の

役割と脳脊髄液の流れをコントロールする

「防波堤」の役割をしている可能性が示されました。

 

これらの結果から、

視床間橋は、第三脳室が拡大する機序や、

脳脊髄液の大きな循環「渦と流れ」と関連しており、

 

ハキム病では脳室が拡大するだけでなく、

この脳脊髄液の流れが乱れていることが

初めて観察されました。

 

 

【背景】

 

脳の中心にある第三脳室という空間には、

脳脊髄液という透明な液体が流れています。

 

その周りには、

睡眠・食欲・体温など、

生命維持に重要な働きを担う神経核が集まっており、

 

この場所が脳の中でも非常に重要な

“中枢”であることは昔から知られていました。

 

 

 しかし、何故、

これら重要な神経核が第三脳室の

周囲に集まっているのか? 

 

第三脳室の中を流れる脳脊髄液の動きが、

こうした機能とどのように関係しているのか? 

 

といった点は、長らく「謎」のままでした。

 

 

第三脳室は、

硬くて厚い頭蓋骨の奥深くに位置しており、

 

心臓のように超音波検査で

簡単に観察することができません。

 

そのため、

第三脳室の中で液体がどのように

動いているかを直接「見る」ことは困難で、

これまで十分に解明されてきませんでした。

 

 

さらに、

第三脳室のほぼ中央には、

左右の壁を形成している「視床」をつなぐ

視床間橋という構造物が存在します。

 

この視床間橋についても、

「ある人とない人がいる」

「女性の方が大きい」

「加齢で形が変わり、

 

次第に小さくなる」など多くの報告がある一方で、

その本当の役割はよく分かっていませんでした。

 

 

【研究の成果】

 

 本研究では、

第三脳室の大きさと、

その中央を橋渡しする視床間橋の幅や面積、

 

第三脳室内を流れる脳脊髄液の渦や流れ方を、

特殊なMRI撮影法

(3次元MRIと4次元フローMRI)を用いて

総合的に解析しました。

 

 

対象は、

健常なボランティア226名と

ハキム病患者83名です。

 

 

この結果、健常な人では、

第三脳室の中に心臓の拍動に同期した

規則正しい渦と流れが一貫して

認められました(図)。

 

これに対してハキム病患者では、

第三脳室が大きく広がり、

こうした秩序だった大きな

 

循環「渦と流れ」が失われていることが

明らかになりました。

 

 

さらに、健康な人でも、

年をとるほど視床間橋の面積は

小さい傾向があり、

ハキム病患者では非常に小さいか、

消失していることが分かりました。

 

 

また、

視床間橋の面積が小さくなっている人ほど、

第三脳室が横方向に大きく広がっており、

 

視床間橋が「第三脳室の形を支え、

流れを整える構造」である可能性が示唆されました。

 

 

 

 

 

これらの結果から、

視床間橋の縮小や消失と第三脳室の拡大が

組み合わさることで、

 

第三脳室内の脳脊髄液の流れが乱れ、

ハキム病の発症や進行に関係している

可能性が考えられました。

 

 

 本研究は、名古屋市立大学、滋賀医科大学、東京大学、大阪大学、東京科学大学、東北大学、山形大学、富士フイルム株式会社の共同研究による成果である。本研究グループは、ヒトの脳血液循環と脳脊髄液の動きをコンピューター上でシミュレーションし、ハキム病などの水頭症アルツハイマー病などの認知症脳卒中などの脳環境代謝に関連する病態を解明すること(脳循環代謝数理モデルの確立)を目指す医工連携、産学連携の共同研究です。

 

 

本研究成果は、

2025年12月11日に

Aging and Diseaseの電子版で公表されました。

 

 

【研究のポイント】

 

・ 特殊なMRI撮影法(3次元MRIと4次元フローMRI)を用いて、

第三脳室と視床間橋の大きさやと内部の

脳脊髄液の渦と流れを包括的に解析した。

 

 

・ 視床間橋は、

第三脳室の横方向への拡がりを抑える「支え」の役割と、

脳脊髄液の流れをコントロールする

「防波堤」の役割を担っている可能性を初めて示した。

 

 

・ 健常な人では、

第三脳室内に心拍に同期した

規則正しい渦流が安定して認められた一方、

ハキム病患者では、

このような秩序だった渦流が失われていた。

 

 

・ 加齢とともに視床間橋は縮小し、

第三脳室の「支え」の構造が弱くなり、

第三脳室が拡大しやすくなる。

 

また「防波堤」の役割を果たせず、

第三脳室内の渦流が不安定になる。

 

 

【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

 

 ハキム病は、

高齢者の歩行障害や認知症の一因となるが、

早期診断が難しく、

治療のタイミングを逃してしまうことがある。

 

本研究は、

視床間橋の「形」と第三脳室内の脳脊髄液の

「流れ」を同時に評価することで、

新しい視点から病気の成り立ちに

迫った点に意義があります。

 

 

今後は、

この知見をもとに、

ハキム病をより早期に見つける

画像診断の指標や手術の前後で

 

脳脊髄液の流れがどのように変化するかを

客観的に評価する方法の開発に

つなげることを目指しています。

 

 

最終的には、

高齢者の歩行障害や認知症の予防・治療に貢献し、

健康寿命の延伸に寄与できることが期待されます。 

 

 

 

 

<参考:産学連携の共同研究>