2026/1/3

「天上界の人間は、 地上界の人間と同じように みえたかもしれませんが、 肉体のない、 霊体だけの人間です。 いや、神なのです。」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「天上界の人間は、

地上界の人間と同じように

みえたかもしれませんが、

肉体のない、

霊体だけの人間です。

いや、神なのです。」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の指示を受け、
 
天上界へ旅をすることになった著者。
 
 
今の天上界の姿を記す役割を与えられ、
 
多くの神々・虚空との問答を重ねる。
 
 
 
たどりついた天上界・虚空界は慈悲にあふれていた ......。
 
ファンタジーとリアリティーで、
 
古事記(神代)の謎を解く物語。
 
 
 
 
 

承の章 古事記(こじき)(天上界)

事物(じぶつ)になれる神

 
 

十三、

 

何もみえないなかで、我の神が、

突然、申された。

 

「ここが、国土・事物の根源の二神が、

ましますところです」

 

「しかし……」

 

「みえないから、

根源こんげん(みなもと)の国なのです」

 

 

貴の神は、混乱した。もう、いよいよ、

ついてゆけない。

 

何もみえないのが根源の国だとは、

どうしても、

理解ができなかったのである。

 

貴の神の胸中を察した我の神は、

 

「さきに、天上界と地上界は、

真実(神)の世界と

真実の姿(事物)の世界と申しました。

 

しかし、

それだけでは、

説明が十分とはいえませんでした。

 

 

少し、長くなりますが、

補足をしましょう」

 

 

我の神は、貴の神を案じながら、

 

「天の八衢に着いたとき、

このようなことを申しました。

 

『貴の神は、半神・半人の人間

(半霊体・半肉体)から、

全神・有人の神(地上の霊体・残肉体)

におなりになり、

 

この天の八衢までおいでになりました。

 

しかし、

天上界には全神・無人の神

(天上の霊体・無肉体)でなければ、

行けません』と。……覚えていますか」

 

 

「はい」

 

とは、返事をしたものの、そのときの、

かりそめの命(今の貴の神)には、

その意味は未消化のままであった。

 

 

我の神は、

貴の神に念を押すように、

 

申された。

 

「天上界でみえた人間は、

地上界の人間と、

同じようにみえたかもしれませんが、

 

肉体のない、

霊体だけの人間です。

 

いや、神なのです。

 

今の天上界でみえた、

あらゆるものは、霊体、

すなわち、あらゆる神々なのです」

 

 

貴の神に、少し、明るさがみえてきた。

 

 

「神には、霊体がみえますが、

地上の人間には、肉体はみえても、

霊体(神)はみえません。

 

ですから、

人間が半霊体・半肉体といっても、

人間には、半肉体の方はみえても、

半霊体の方はみえないのです」

 

 

貴の神は、

なるほどと思いながらも、

それでも、何か、もやもやしている。

 

 

「人間は、生まれたときに、

名がつけられます。

 

このときが、まさに、霊体(神体)が、

肉体に宿ることになります。

 

肉体につけられ名に、神(霊体)が宿り、

半霊体・半肉体の人間が、

生まれることになるのです。

 

 

ですから、人間は、肉体を生みますが、

霊体を生むわけではありません。

 

霊体は神(天上界)からの、

授かりものなのです」

 

どうやら、

腑ふ(こころの底)に落ちたらしく、

貴の神の顔に緩(ゆる)みがみえた。

 

 

 

十四、

さらに、我の神は、語をついで、

 

「霊体は、永遠で、不滅なのですが、

転生てんしょう(生まれ変わり)は、しています。

 

この転生をつかさどる神が、

根源(こんげん)の神の業(わざ)といえるでしょう」

 

 

貴の神は、

わだかまりの塊(かたまり)が、

少しずつ、溶けるのを感じながら、

我の神のつぎの話を、待った。

 

 

「まえおきが、長くなりましたが、

天地に身を隠すとは、

天地に全身全霊を隠すことです」

 

 

と、再び、話しだされた。

 

「ですから、人間には、

格の高い霊体がみえないのと、

 

同じように、

貴の神・我の神(霊体)の二神からは、

格の高い根源の神(根源の霊体)はみえません。

 

それゆえ、

この国は、何もみえません」

 

 

我の神の説明の最後は、

素っ気ない。

 

伊弉諾の尊の国(国生み後)、

そして、双つ神の国(国生み前)から、

根源の山々はみえたのに! 

 

 なぜ、ここでは

みえないのか!?と

自問自答をしかけていた貴の神に、

我の神が答えるように、申された。

 

 

十五、

我の神の声は、これまでとはちがって、

少し、寂しげである。

 

「事物の根源の神より格の高い立場の神からは、

事物の根源の神はみえるのです。

 

 

格の高い立場の神とは、

別格の天つ神と申され、さきにお示しした、

天上の五柱の神々のことです」

 

 

その声は、

別離が近いことをにおわせている。

 

だが、一気に、話を進められた。

 

「そのなかの天地生成の神の一柱で、

天上界をつかさどる根源の神・

あめのとこたちの神にお願いして、

 

霊描れいびょう(神の描くもの)していただいたのが、

あの山々です。

 

別格の天つ神(天上の神々)から、

国生み・神生みを命令された伊弉諾の尊には、

たとえていえば、天上の神々は、

親にあたります。

 

 

それゆえに、特別に、貴の神のために、

天上界の根源をつかさどる、

あめのとこたちの神にお願いして、

霊描していただいたというわけです。

 

霊描をお願いしたのは、

天上界に貴の神をお召しだされた、

先祖にあめのみなかぬしの神、

子孫に天照大御神を、いただき遊ばす神、

 

すなわち、

伊弉諾の尊であったのです」

 

 

この話を聞いた貴の神の感激は、

いかばかりであっただろうか。

 

と同時に、今までみえなかった神々の山々が、

稜線も鮮やかに、

遠近の配置もみごとな

山並みをあらわしたのである。

 

貴の神は、思わず、正座して、

山並みを拝した。

 

 

 

<参考:吉開 輝隆>